2026年11月2日、防災庁から「事前防災徹底のための緊急要請」が出されました。水や食料の備蓄、避難場所や経路の確認など、家庭での備えが改めて呼びかけられています。
では、支援を必要とする人の防災対策では、何を備えておく必要があるのでしょうか。
一人では避難することが難しい人、人工呼吸器を常時使用している人、痰の吸引が必要な人もいます。電気や水道、ガスといったライフラインが止まれば、普段の介護や医療的ケアを続けることが難しくなる場合があります。
一般的な防災用品の備蓄だけでは対応しきれない課題が、在宅介護にはあります。
備えの出発点は、本人に必要なケアを書き出し、緊急事態のときの対応を家族・自治体・医療や介護の担当者と確認しておくことです。避難先の場所と名称に加えて、そこまで移動できるか、着いた先でもケアを続けられるかを考慮する必要があります。
ここでは、地震・水害・大雪による停電や断水に備え、平常時に相談しておきたいことを整理します。
防災用品を選ぶ前に、一日の自宅でのケア内容をたどる
朝起きてから夜寝るまでの生活を思い浮かべると、必要な備えが見えてきます。
食事はどのような形で、誰が用意しているか。薬を飲む際に手助けがいるか。ベッドから車いすへ移るときは何人必要か。こうした普段の手順が、非常時の相談の材料になります。
たとえば、次のように「普段のケア」と「ないと困ること・もの」を書き出します。
(これは書き方の例であり、特定の人の体験談ではありません。)
| 普段のケア | 備えを考えるための確認 |
|---|---|
| やわらかい食事を用意する | 調理や給水ができなくても、本人が食べられるものはあるか |
| ベッドから車いすへ移る | 家族が不在の時間や、移乗リフトなどが止まった場合にどのような移乗方法をとるか |
| 電気を使う医療機器を使う | 電源が切れたときの対応を、医療職・機器業者と決めているか |
| 訪問介護などの支援を受ける | 事業所が訪問できない場合、何が困るか |
上記以外にも、身体状況や病気などによる様々な課題が出てくるかと思います。
そういった緊急時にどうしたらよいか、ケアマネジャーや相談支援専門員には生活・サービスの調整を、主治医や訪問看護には医療面を相談できます。まだ担当者がいない場合は、市区町村の高齢者福祉・障害福祉の窓口などに、災害への備えを相談することができます。
介護全般の相談先から整理したい場合は、家族の介護・状態別の相談先も参考になります。
相談時は「災害が心配です」だけでなく、「停電や断水などが起こった時、こういったケアはどのように対応したらよいか」等、具体的に伝えると、関係者が状況をイメージしやすくなり、対応について共通認識を持ちやすくなります。
避難先は「近い場所」だけで決めない
災害の種類を想定し、自宅から外に出るまでを考える
最初に確認したいのは、市区町村のハザードマップと避難情報です。洪水・土砂災害・津波など、災害ごとに危険な場所や必要な行動は異なります。
水害で避難に時間がかかる人は、危険な場所にいる場合、「警戒レベル3・高齢者等避難」での避難が必要です。自治体の情報に加え、気象情報などにも注意し、移動に時間がかかることを踏まえて早めの行動を相談しておきます。ただし、地震や津波に、この警戒レベルの待ち方をそのまま当てはめるものではありません。
津波の危険がある沿岸部や川沿いなどでは、強い揺れや、弱くても長い揺れを感じたら、警報や避難情報の発表を待たず、高台や避難ビルなど安全な場所へ速やかに避難します。津波は繰り返し襲うため、津波警報・注意報が解除され、安全が確認されるまでは、危険な場所へ戻ったり、様子を見に行ったりしないでください。
一方、「介護があるから自宅に残る」「防災では全員が避難所へ行く」と一律に決めることもできません。
自宅で安全を確保できるかは、災害の種類や建物・周囲の状況によります。平常時に避難候補を用意し、発生時は最新の自治体の避難情報などに沿って行動する備えが必要です。
家族で経路を確かめる際は、地図上の距離だけでなく、玄関の段差、階段、車いすで通れる幅、車に乗り移る場所も見ておきたいところです。大雪や道路の被害で予定の経路が使えない場合も、確認事項に加えます。移乗・階段での介助は、本人と支援者の状態に合う方法を専門職と確認し、無理な移乗や移動を前提にしないようにしましょう。
参照:国の避難情報ガイドライン(令和8年3月改定)、気象庁・防災気象情報と警戒レベル
「危険から逃れる場所」と「生活する場所」では、同じように過ごせるとは限らない
指定緊急避難場所は、災害の危険から命を守るために緊急的に避難する場所です。洪水や地震、津波など、災害の種類ごとに指定されます。
指定避難所は、避難した人などが一定期間滞在するための施設です。同じ施設が両方を兼ねる場合もありますが、名前が載っているだけで、あらゆる災害に適した場所とは限りません。
さらに、福祉避難所も、誰でもいつでも直接行けば受け入れられるという仕組みではありません。直接避難を想定する対象者や事前調整、開設時の運用を居住地の自治体に確認します。
例えば、「本人は車いすを使い、移動と排泄に介助が必要です。どこへの避難を想定し、直接向かえる条件はありますか」と聞けば、場所だけでなく受入条件まで相談できます。医療機器を使う場合は、電源や必要なケアへの対応も別に確かめておきます。
参照:国・指定緊急避難場所と指定避難所の違い、国・福祉避難所ガイドラインの改定と本文、主な改定のポイント
避難経路を確認していても、予定どおりに避難できるとは限らない
以前、地震が発生し、避難指示が出たときのことです。
当時勤務していた事業所では、災害などの緊急時は一人での避難が困難な方や、避難に人手が必要な方など利用者それぞれの状況を確認する体制がありました。
その際、移動に二人介助が必要な方がいました。非常時に介護を手伝う協力者は決まっていましたが、地震発生時には対応できず、必要な介助者が一人しかいないことが分かり、急遽現場へ向かいました。
ご家族と協力して車で指定された避難所へ向かいましたが、道路は激しく渋滞していました。移動はご本人にとっても負担となり、結局、避難所までたどり着くことができず、自宅へ戻ることになりました。
幸い、そのとき津波は来ませんでした。しかし、結果として被害がなかったことと、自宅へ戻る判断が安全だったかどうかは別の話です。
この経験で実感したのは、どれだけ事前に備えていても、実際の緊急事態では想定外のことが起こるということでした。
非常時に協力してくれる人を決めていても、その人が災害時に対応できるとは限りません。必要な介助者がそろっても、道路の混雑や通行止めなどによって、予定した避難先へ移動できないこともあります。
在宅介護では、本人の身体状況や必要な介助者の人数、家族や支援者がその時にいる場所などによっても、避難できる条件が変わります。
事前の計画を立てる際は、予定どおりに進まない状況を考えておくことも災害への備えのポイントの一つです。
特に津波などの危険が迫る場合は、車での移動や特定の支援者だけに頼ることができない可能性を踏まえ、本人の状態と地域の危険に応じた、迅速な避難方法を平常時から自治体や関係者と検討しておく必要があります。
避難計画を作成する過程は、緊急時の避難経路や支援方法について、本人・家族と関係者が情報を共有し、共通認識を持つ機会にもなります。
自治体の名簿や個別避難計画は、登録の先まで聞いておく
災害時に自力での避難が難しく、特に支援が必要な人を把握するためのものが「避難行動要支援者名簿」です。誰が、どこへ、どのような支援で避難するかを一人ひとり具体化するのが「個別避難計画」です。
市町村には名簿を作成する義務があり、個別避難計画の作成は努力義務とされています。ただし、登録や計画があることと、災害時に支援者や車両、避難先が確実に確保されることは別です。
自治体によって名称や対象、手続きも違います。たとえば浦安市は、要介護認定者向けの案内で、ケアマネジャーなどと相談して計画を作る方法を示しています。事業所の介護支援専門員が作成した場合と、家族などが作成した場合では、提出方法も分けられています。
広島市の令和8年度の調査では、その年度の対象となる名簿掲載者に、調査票などを住民票の住所へ郵送する方法が示されています。これは広島市の当該年度の運用例であり、全国で同じ書類が届くという意味ではありません。
家族から自治体へ確認する際、次の内容で聞いてみるのも良いでしょう。
- 本人は名簿の掲載対象か。掲載状況や、個別避難計画の有無はどこで確認できるか。
- 計画を作る場合、誰と相談し、どこへ提出するのか。
- 情報は誰に、どの範囲まで共有されるのか。
- 予定の支援者が来られない場合、どのような対応や方法があるのか。
なお、名簿への掲載、個別避難計画の作成、情報の外部提供では、同意の扱いが異なります。
名簿への掲載に本人の同意は不要です。一方、平常時に名簿情報を外部の避難支援等関係者へ提供する場合は、条例に特別の定めがある場合を除き、本人の同意が必要です。
個別避難計画の作成にも本人の同意に関する法定の規定があり、同意が得られない場合は、市町村の作成努力義務の対象から除かれます。また、平常時の計画情報の外部提供は、条例に特別の定めがある場合を除き、本人と避難支援等実施者の同意が必要です。名簿掲載だけで、計画作成や外部提供への同意まで済んだことにはなりません。
自治体へは「何について、誰の同意が必要か」を聞き、緊急時の取扱いも含めて説明を受けておくと、手続きと情報の共有範囲を整理できます。
参照:国・名簿と個別避難計画の制度、令和8年6月29日通知、関連条文(第49条の11・14・15等)、浦安市の作成・提出方法、広島市の令和8年度調査
停電への備えは、使っている機器の名前から相談する
人工呼吸器や酸素濃縮器、吸引器などを使っている場合、一般的な防災用品のリストだけでは対応を決められません。同じ種類の機器でも、機種や使用条件、本人の状態で備えは異なります。
主治医・訪問看護・機器業者には、機種名を伝え、次の内容を事前に相談します。
- 使用する予備電源と、その状態での使用可能時間
- 電源切替の手順、充電・交換・点検の方法
- 機器を使えなくなった場合の、本人に合った代替手段と必要な指導
- 停電が長引く場合の連絡先と、移動・受診等へ切り替える段取り
福岡県の在宅人工呼吸器使用者向けの案内でも、外部バッテリーの点検・充電や、代替手段について主治医等から指導を受けることが示されています。家族が文章を読んだだけで医療的な対応を実施するのではなく、普段から担当者と手順を共有するための相談です。
「大容量のポータブル電源だから使える」「充電しておけば何時間でも持つ」とは判断できません。使用できる電源や接続、作動時間はネット上の情報だけで判断せず、必ず使用している機器の業者に確認してください。酸素の流量や医療機器の設定も自己判断で変更しません。
また、燃料を使う携帯発電機は一酸化炭素中毒の危険があり、屋内で使用してはいけません。酸素療法中の火気にも注意が必要です。暖房や調理をどうするかも含め、機器の安全な使い方と一緒に備えを考えます。
参照:福岡県・在宅人工呼吸器使用者等の停電への備え、消費者庁・携帯発電機等の事故防止、厚生労働省・在宅酸素療法と火気
電気以外に、水・食事・排泄・室温も
断水すると、飲み水だけでなく、手洗い、食器の管理、排泄の介助にも影響します。本人が食べられる食品、使い慣れた排泄・衛生用品、保温に必要なものを、普段の使い方に沿って備える方法を相談しておきます。寒さだけでなく、暑い時期に冷房が使えなくなる場合も考えておきたいところです。
飲水量や食事に制限がある人、経管栄養などの医療的ケアが必要な人は、非常時の水分・食事・衛生管理を主治医や看護師等に相談します。一般向けの備蓄量を、そのまま本人の摂取量に当てはめずに考えていく必要があります。
薬や医療材料も、必要量、保管条件、補充先を処方元や薬局などと相談して決めます。手元にある実際の残量や使用期限も確かめておきます。お薬手帳、処方内容や機器の情報、連絡先は、スマートフォンが使えない場合にも参照できるよう、紙媒体に記載するなどの手段を用意しておくと相談に役立ちます。
「誰かが来てくれるはず」を、具体的な役割に変える
避難支援の相談では支援者の名前だけでなく、いつ連絡し、どこまで手伝えるかを共有します。日中は家族が仕事で不在、夜間は支援者に連絡がつきにくいなど、時間帯でも条件は変わります。
ケアマネジャーやサービス事業所にも「連絡が取れないとき、家族はどう動けば良いですか」と緊急事態の際の対応を確認します。担当者や事業所自身も被災する可能性があるため、全員への訪問や救助を前提に予定を組むことはできません。
連絡先は家族内の連絡に加え、医療機関・訪問看護・介護や障がい福祉の担当者・機器業者など、いざというときの連絡先を整理します。ご近所の方に協力をお願いできるか、電話が使えないときの連絡経路や、離れて暮らす家族への伝え方を確認するのも良いでしょう。
記録は本人の意向を踏まえ、誰が保管し誰にどの情報を渡すかまで相談しておきます。関係者全員に同じ個人情報を配ることを前提にせず、自治体の制度と支援に必要な範囲を確認します。
本人の状態、住所、家族の状況、利用するサービスが変わったときは、計画や連絡先も見直す機会です。書類を作った日だけでなく、関係者と最後に確認した日を残しておくと、その後の話し合いにもつなげられます。
次の相談に持っていく「わが家の非常時メモ」
最初からすべて埋めるより、今すでに確認できていること、まだ相談できていないことを分けると使いやすくなります。紙や手元のノートへ、次の項目を書き出せます。
- 本人に必要なケア: 食事、服薬、排泄、移動、医療機器、普段利用するサービス
- 自宅の危険と避難候補: 災害の種類ごとの候補、自治体の情報を受け取る方法
- 移動方法: 家を出るまでの介助、経路、移動手段、支援者が不在の場合の相談事項
- 名簿・個別避難計画: 確認先、作成状況、同意・情報共有の範囲
- 電源・水・医療面: 機種、担当者と確認した代替手段、薬・医療材料の補充先
- 連絡: 医療・介護・家族の連絡先、通信障害時の別の経路
- 未確認のこと: 次に誰へ、何を聞くか
- 最終確認日: 関係者と内容を確かめた日
これは家庭で相談を進めるためのメモの一例です。
氏名・病歴・連絡先などの個人情報の取り扱いについて、保管・共有の範囲を関係者と確認しながら決めていきます。
在宅介護で普段から緊急時の備えを考える時、「緊急事態の際に困るケア」を書き出しておく。物を買い足す前に、本人に必要なことと、まだ決まっていないことを相談して共有する。その積み重ねが、わが家に合う備えを具体的にしていきます。
情報確認日:2026年11月5日。制度・自治体の運用・避難所の受入条件は変わる場合があります。居住地の最新情報と、本人に関わる医療・介護の担当者の説明を確認してください。
